燃ゆる炎
文.空蝉さん(二アデス・ハピネス) 絵.Nia
貴方を受け止められなかった。 「ここの他で生きてなどいけない」 私たちは、ここで育ったのだ。 この、息苦しくも奇妙に温かい屋敷で。 「……でも。もし、お前が私を連れて逃げるなら……」 私にとっては貴族の位などさほどの価値もなかったはず。 事実に、眼をつむれば。 あの事は、私と親方様しか知る者はいないのだから。 「お前なら、私にあわせて歪んでいるから……」 そう、貴方と私は共に育った。 この箱庭の中で、貴方と私は倒錯した。 貴方は私を鞭で打ち、血をすすっては悦びに震えた。 私もそんな貴方を見て、酷く欲情したのだ。 なぜ、あの時、貴方を連れて逃げ出せなかったのか。 貴方の将来のため? 兄妹だから? それとも……。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * 邪教徒狩り。 それが我々の仕事だった。 火にくべられる民たちを見やる貴方の瞳は、幼き日に小動物を焼いていた、 あの頃のままだった。 私はただ黙々と、貴方の隣で仕事をこなした。 幾度目かの征伐。 療養院だった。 いくつも並ぶ磔台。 そこで、私は数年ぶりに母と会いまみえた。 「お前が火を放て」 磔になった母に、火を放てと貴方は命じた。 「証明して見せろ。お前の母でないと」 泣いていた。 私ではなく、貴方が。 「お前の主は私だけだ」 保身のためでなく。 任務のためでもない。 私は、貴方の側に居続けたいがために、母を焼いた。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「どうしたのだ、セルピコ」 「……。えっ?」 「ぼんやりして……何を考えていたのだ?」 「いや〜、今夜のメニューは何にしようかな、と」 ――殊更おどけ過ぎただろうか? 「……そ、そうか」 「何かリクエストはありますか?」 ここには分厚い肉も、洒落たワインもない。 あるのは、山菜や茸、野兎や野鳥。 「特には無い。任せる」 そう言って、向こう側に歩き出した貴方の背中を見つめて、溜め息を一つ。 そして、想う。 ファルネーゼ様。 今は、ただ、貴方の傍らに。 |
(完)
空蝉さんに旧サイトの開設記念として頂いたベルセルクSS「燃ゆる炎」です。
ベルセルク大好き人間な私としてはひたすら感動でした!
Leaf系のSSとはまた違った魅力があります。
挿絵描くのも楽しかったです♪
空蝉さんありがとうございました(^^)